夏休み中のブログに、下のような内容を掲載したことがあります。再掲します。
※「愛媛県小中学校長会報」R2.10.2号に掲載されていました、広田小学校の山下吉信校長先生の玉稿の一部を紹介します。
「しっかりとした子ども時代を」広田小学校長・山下吉信 氏
(前略)最近、『生き物が大人になるまで~「成長」をめぐる生物学~』(稲垣栄洋著/大和書房)という本を読みました。「カブトムシの大きさ、あんなにも差が出る理由」という見出しに興味を引かれたのですが、要約すると次のような内容です。
〇 カブトムシは成虫になると、どれだけ餌をたくさん食べても、大きくなることはない。
〇 カブトムシの体の大きさは、幼虫のときに食べたえさの量で決まる。
〇 イノコヅチという植物は、葉の中にイモムシの成長を早める成分を含んでいて、この葉を食べたイモムシは他の幼虫に比べて葉を十分に食べることなく、早く大人のチョウになってしまう。
〇 イノコヅチを食べたイモムシは、小さな成虫にしかなれず、卵を産む力もない。
〇 早く成虫にすることが、イモムシを退治するイノコヅチの作戦。
稲垣氏は、最後に次のように述べています。「もしかしたら、私たちは知らず知らずのうちに、子どもたちに対して同じことをしてはいないでしょうか。(略)しっかりとした大人になるためには、しっかりとした子ども時代を過ごすことが大切なのです。」(後略)
※以上が山下校長先生の玉稿です。
約3年前、これを初めて読んだとき、私は、改めて自然界の神秘や奥深さを知るとともに、その巧妙さ、さらに言えば、怖さすら感じたことを覚えています。
ところで、稲垣氏が言うところの「私たちは知らず知らずのうちに、子どもたちに対して同じことをしてはいないでしょうか。」の「同じこと」とは、どういうことでしょう?ブログをご覧くださっている皆様はどうお考えでしょうか?
多様な解釈があると思いますが、私はこう捉えています。
① 子どもたちが大人になったとき、自身の良さ(ステキ&キラリ)を発揮しながら豊かで幸せな人生を築いていくために必要となる経験を、子ども時代に十分に積ませていない。
② 目先の結果や効率性にとらわれて、私たち大人が子どもにとって良かれと思って与えているものが、実は、子どもの成長を阻害している。
今私たちは、スマホ一つあれば、瞬時にあらゆる情報を得たり共有したり、バーチャルな体験をしたりすることができます。こうした状況は、今や大人世界だけでなく、子どもたちの世界も侵食しています。
以前のブログでも触れたように、マッチの使い方を知らない(マッチを見たことすらない)子どもたちや、電化が進む日常生活の中で炎を見ることがほとんどない子どもたちが増えています。こうした現実を見るにつけ、子どもたちの実体験の不足を痛切に感じるとともに、危機感のようなものを覚えます。
私たち大人は、子どもたちに「豊かな体験」や「価値のある失敗体験」をたくさんさせるとともに、「失敗から学ぶ経験」を積み重ねさせることの必要性と重要性を思い出さねばならないのではないでしょうか…。
カブトムシと同じく、子どもたちの人間力(人間としての基礎力・土台=人間の根っこ)も、幼い頃に食べたえさの量(=実体験の量と質)で決まる部分があるのかもしれません。
以上が夏休み中のブログです。
さて、本日、4年生の図工授業(木材を使っての工作)の様子を観察しました。日常生活の中で、自身の手で加工することはほとんどないと思われる木材を使って、生き生きと造形活動に取り組んでいました。
木材を加工する際に使用するのは、「両刃のこぎり」や「かなづち」「釘」です。こうした道具等に触れる(使う)ことは、一般的な家庭生活の中ではほとんどないと思われます。
実際、「両刃のこぎり」の「縦引き歯」と「横引き歯」の違いや使い分けを知ったのは、この授業が生まれて初めて!という児童が大半でした。
自身を振り返りますと、両刃のこぎりの使い方を教えてくれたのは父でしたし、生活の中に「木」はふんだんにありましたので、幼い頃から「のこぎり」「かなづち」「釘」等を使って遊んでいました。ちなみにお風呂は「五右衛門風呂」でしたので、薪等を燃やして湯を沸かすのが子どもの仕事(お手伝い)の一つでもありました。そういう意味では「火」も大変身近な存在でした。ですので、当然、幼い頃は切り傷や打撲、火傷等のけがをたくさんしました。
4年生の子どもたちの様子を見ておりましたら、造形活動という五感を使った実体験を通して、たくさんの貴重な学びをしていました。
〇 「のこぎり」は歯の角度(切る角度)によって、切れ方や手に伝わる負荷が全く異なること。
〇 木を垂直かつ一直線に切ることは結構難しいこと。
〇 木が動かないように手や足で固定するためには結構な力が必要で、難しいこと。
〇 「かなづち」で釘を真っ直ぐ打ち込むにはそれなりの技術が必要なこと。(叩く強さ、角度がポイント。)
〇 つなぎ合わせる2枚の板の厚さ・強度を考えて、釘の長さ・太さを吟味・選択しなければならないこと。
〇 釘の選択を間違えると、板が割れてしまうこと。
〇 打ち込むのに失敗した釘の抜き方には、いろいろな方法があること。(釘抜きやペンチの使用、かなづちを使った打ち返し等々)
〇 L字フックの固定は「きり(錐)」を使うとうまくいくこと。
数え上げればきりがありません。上記以外にも、まだまだたくさんの学び(価値のある失敗体験)が見て取れましたが、きりがないのでこのあたりで止めておきます。
子どもたちの図工授業の様子を見させてもらいながら、改めまして、夏休みのブログで述べました以下のことを再認識しました。
「私たち大人は、子どもたちに「豊かな体験」や「価値のある失敗体験」をたくさんさせるとともに、「失敗から学ぶ経験」を積み重ねさせることの必要性と重要性を思い出さねばならないのではないか。」
「カブトムシと同じく、子どもたちの人間力(人間としての基礎力・土台=人間の根っこ)も、幼い頃に食べたえさの量(=実体験の量と質)で決まる部分があるのかもしれない。」
今後の「学校」の在り方について、また、「家庭」や「地域」での子どもたちの生活の在り方について、私たち大人が、しっかり考えていく必要があることを再認識した時間となりました。